平成27年5月1日から、月間計カプセルの測定を開始しました。
PDF資料 2014環境学会予稿原稿14Apr17 2015年JAES予稿(最終稿)
[日本環境学会 第40回研究発表会(2014年、東京農工大学)演題番号3-10]
天谷式二酸化窒素(NO2)測定1ヵ月用簡易カプセルとその検証
○鈴木一義(市川の空気を調べる会)、伊藤章夫(千葉あおぞら連絡)
粟屋かよ子(元四日市大学)、 天谷和夫(元群馬大)
連絡責任者:鈴木一義(kazu38yoshi@eos.ocn.ne.jp)
キーワード:二酸化窒素、簡易測定法、月間計、相関直線、変動係数
1.はじめに
天谷式NO2測定簡易カプセルは1973年に開発され、大気汚染の簡易測定法として主に市民により全国的に用いられ、道路公害監視運動などに大きな役割を果たしてきた1)。しかしこの日間計は、日毎の変動が大きいNO2濃度の経年的変化を見るには不十分な面があった。そこで天谷は1か月間の平均濃度を調べるNO2測定 1ヵ月用簡易カプセル(本器又は簡易月間計と略す)を開発した。
神奈川生協連有志は2002年に1年間天谷の指導と神奈川県環境科学センターの協力で、県下測定局で本器の試験を行っている。得られた本器の測定値と測定局測定値をプロットしたグラフは、両者の高い相関性を示唆したが、相関式は求めなかった。また1カ所3個毎のカプセルのバラツキも平均2.4%と良好であった2),3)。
簡易月間計のNO2捕集量を大気中濃度に換算する方式として、天谷は横浜市公害研究所の平野耕一郎氏らが開発した市販の月間サンプラーとの比較試験から捕集係数 6.13ppb/μg/30日を得て、これにより換算を行ってきた。
今回我々は複数の測定局に簡易月間計を取り付け、NO2のカプセル捕集量(μg)と測定局月間平均大気中濃度(ppb)との相関性から大気中濃度に変換する方式を検討した。併せて測定値のバラツキを検討し、両者からその実用性を検証した。
2.簡易1カ月計の構造と試験方法
本器は外径12㎜、長さ35㎜のガラス瓶サンプラーと、それを覆う外径16㎜、長さ47㎜のアルミ管ホルダーからなる。アルミ管の一端に内径8㎜のワッシャを取付け、ワッシャ内側にステンレスフィルターを貼る。サンプラーは、瓶底にNO2吸着剤を含むろ紙が2本のストローにより押し付けられ、使用前は蓋で密封されている。測定時に蓋を外し開口部を下に向けてホルダーに挿入し、ホルダー開口部にゴムキャップをし、フィルター部を下に向けて測定箇所に取付ける。ホルダーに熱伝導の良いアルミ管を用い、熱の迅速な均一化による対流防止と遮光を行っている。これによりフィルターを通ったNO2は原則として拡散のみにより35㎜離れたろ紙に到達するため、NO2の捕集係数は小さくなっている。
カプセルは開発者が作成し、下記3市の担当者に送り、各市の担当者はそれぞれ2測定局に1カ所3本づつ並べて取付けた。取付箇所は、3市とも行政当局から取付の許可を受け、測定局の空気取入れ口に近い測定局建屋壁等に取付けた。
四日市市 磯津局(一般局)、 納屋局(自排局)
市川市 本八幡局(一般局)、市川局(自排局)
千葉市 寒川局(一般局)、 中央局(自排局)
毎月の測定開始と終了は1日とし、アルミホルダーからサンプラーを回収して蓋をする。次に未測定サンプラーを蓋を外してホルダーに挿入し、ホルダーにゴムキャップをし取付ける。測定済みサンプラーは直ちに開発者に送り、開発者は原則としてザルツマン試薬によりNO2の定量を行った。
3.結果
(1)カプセル捕集量と測定局測定大気中濃度との相関性
2013年10月から2014年3月までの6か月における、各測定局のNO2カプセル3本平均捕集量(μg)と測定局月間平均大気中濃度(ppb)は表1の通りであった。カプセル捕集量は各月とも30日当りに均一化した。カプセル全108本中3本の測定値は同時測定の2本との差が大きく異常値として除外した。カプセル捕集量を横軸に、測定局大気中濃度を縦軸にとり両者の相関性を見ると、図1の相関直線式が得られた。納屋局は他の5局に比して、カプセル捕集量に対する測定局大気中濃度が30%以上低く、カプセル設置位置が測定局空気取入れ口から離れ過ぎていることが考えられた。図1のAは納屋局を除く5局による相関性を、Bは全6局のそれを示す。Aの相関係数はR=0.97、BはR=0.78であった。
表1各測定局1か月当りのNO2カプセル平均捕集量(μg)と大気中平均濃度(ppb)
13-Oct | 13-Nov | 13-Dec | 14-Jan | 14-Feb | 14-Mar | ||||||||
捕集量 | 濃度 | 捕集量 | 濃度 | 捕集量 | 濃度 | 捕集量 | 濃度 | 捕集量 | 濃度 | 捕集量 | 濃度 | ||
磯津 | 2.63 | 15.0 | 2.54 | 17.0 | 2.51 | 16.0 | 2.66 | 18.1 | 2.19 | 15.3 | 2.68 | 17.4 | |
納屋 | 5.70 | 28.0 | 5.10 | 25.0 | 5.12 | 22.0 | 4.70 | 23.4 | 4.88 | 19.6 | 5.84 | 26.5 | |
本八幡 | 2.32 | 13.5 | 2.96 | 25.2 | 3.39 | 27.0 | 3.64 | 25.7 | 2.75 | 19.0 | 2.62 | 17.9 | |
市川 | 3.11 | 18.8 | 4.52 | 31.0 | 4.41 | 32.6 | 3.92 | 30.7 | 3.43 | 24.2 | 3.53 | 24.0 | |
寒川 | 2.43 | 13.3 | 3.58 | 23.5 | 3.51 | 25.3 | 3.07 | 23.6 | 2.67 | 18.0 | 2.76 | 17.9 | |
中央 | 3.34 | 23.1 | 3.84 | 30.5 | 4.67 | 32.3 | 4.31 | 32.4 | 3.97 | 29.1 | 3.92 | 27.6 |
図1.NO2簡易1カ月計の捕集量と大気中濃度との相関性
A. 納屋局を除く5局と原点による相関性 B. 全6局と原点による相関性
(2)カプセル捕集量のバラツキに関する検討
本器のカプセル捕集量のバラツキを検討するために、各測定局3本当りのバラツキを調べた。この指標として、扱う数字の大きさに関係なくバラツキの程度を比較でき、1群のバラツキを1数字で表せる、変動係数CV=標準偏差/平均値 を用いることとした。6か月間の各測定局当りの変動係数(%)は表2の通りであった。36のCV値の平均は3.99%、最小は0.5%、最大は8.9%であった。
表2 カプセル捕集量の1測定局3本当たりの変動係数(%)
13-Oct | 13-Nov | 13-Dec | 14-Jan | 14-Feb | 14-Mar | |
磯津局 | 4.4 | 2.2 | 3.8 | 0.5 | 1.7 | 7.6 |
納屋局 | 3.5 | 3.2 | 2.9 | 4.2 | 4.3 | 1.8 |
本八幡局 | 2.8 | 8.9 | 7.7 | 5.6 | 5.2 | 1.1 |
市川局 | 3.5 | 2.5 | 5.3 | 1.9 | 2.0 | 5.3 |
寒川局 | 5.0 | 6.4 | 8.5 | 2.5 | 4.5 | 3.0 |
中央局 | 3.4 | 5.5 | 0.7 | 5.8 | 3.5 | 3.1 |
(3)四日市市納屋測定局について
納屋局は、幹線道路の幅約3mの歩道の内側に沿って立つ高さ2m程の遮音壁の内側にあるが、壁は測定局から約1mで途切れている。測定局の空気取り入れ口は壁の内側約3m、高さ約3mのところにある。一方カプセルは測定局のある遮音壁外面の高さ約1.5mに取付けられている。この両者の位置の違いが両者の濃度差をもたらしていることが考えられたので、今後は取入れ口により近いところにもカプセルを設置し測定することとした。
4.おわりに
天谷式NO2簡易月間計は、今回三重県と千葉県という遠隔の6測定局に取付け、6カ月という1年間予定試験の中間段階ではあるが、カプセル捕集量と測定局大気中濃度との間に、R=0.97という極めて高い相関性の相関直線式が得られた。天谷式改良型簡易日間計(第6世代、6G)は、市川での5年10回にわたる試験で、常にR=0.95前後の高い相関性を持つ相関直線式が得られているが1)、本器の今回得られた相関式は数季節にわたる広範囲な地での試験から得られたものであり、今後長期間広範囲な地域で利用可能と考えられる。
カプセル捕集量のバラツキについては、簡易日間計の第6世代(6G)と第3世代(3G)について長屋らが両者の変動係数を比較し、3Gの平均24.3%に対して6Gは平均7.1%で6Gの優位性を示したが4)、本器のそれは4%であり、精度でも6Gに劣らないことが示された。なお、カプセル108本中3本の捕集量を異常値と判断したが、これら異常値は測定開始後数ヵ月のカプセルに発生した。カプセル作成者は、この原因としてストローやサンプラーの洗浄不十分の再利用による可能性を挙げており、これらの除外は許されると判断し削除した。
以上の検討結果から、本器はNO2濃度の経時的変化を見る用具として、その安価、簡単操作性からも、極めて有用な測定具であると見なされる。
参考文献
1)粟屋かよ子、ほか(2013)四日市大学環境情報論集17(1).53-76
2)永山紀子、ほか(2002)洗剤・環境科学研究会予稿集 演題2-7
3)天谷和夫(2003)洗剤・環境科学研究会予稿集 演題2-3
4)長屋祐一、谷山鉄郎(1998)Man&Environ.24(1).10~16
[日本環境学会 第41回研究発表会(2015年、京都龍谷大学)演題番号A-4]
二酸化窒素(NO2)月間測定用簡易カプセルの実用性
○鈴木一義(市川の空気を調べる会)、伊藤章夫(元千葉県環境研究センター)、
粟屋かよ子(元四日市大学)、天谷和夫(元群馬大学)
連絡責任者:鈴木一義(kazu38yoshi@eos.ocn.ne.jp)
キーワード:二酸化窒素、簡易測定法、月間計、相関直線
1.はじめに
本試験は天谷が開発したNO2月間測定用簡易カプセル(簡易月間計と略す)について2013年10月から翌年9月までの1年間、3都市で測定局取付試験を実施し、その信頼性と実用性を検討したものである。初めの6カ月のデータをもとに前本学会でその成績を報告した(演題3-10)。前報において、カプセル捕集量(μg)と測定局大気中濃度(ppm)との相関性は相関係数が0.95以上と高く、またカプセル捕集量のバラツキは変動係数が十分に低く、信頼性の高い第6世代1日用簡易カプセルに比しても劣らないことが実証された。本器の構造や試験方法については前報で述べた。
本報では1年間のデータをもとに、カプセル捕集量と測定局大気中濃度との相関性について、確定した相関式が得られるのか、季節や地域により影響を受けるのか、そして実際にカプセルから求めた大気中濃度と測定局のそれとの近似性を検証し、これらにより簡易月間計の実用性を検討した。
2.結果
(1)カプセル捕集量と測定局大気中濃度との相関性検討
(イ)1年間の3地域全測定値による検討
3地域6測定局のうち四日市納屋局は、前報で述べたように、測定局を囲む道路際の壁に取付けたカプセルの捕集量に比して、測定局大気中濃度が低く、他の5測定局データに基づく相関直線から大きくかい離した。そこで2014年5月度から9月度までは、壁内側の測定局建屋にもカプセルを取り付け測定した。
今回1年間全測定値による相関性を検討するにあたり、まず納屋局建屋取付け測定の5か月分を加えた場合と加えない場合について検討した。なお今回各種組み合わせにおける相関性を検討するに当り、相関性の比較をより鮮明にするために、全ての組み合わせにおいて原点を除いて検討した。
全測定値による相関性の図Aは、納屋局を除く5局1年の60組による相関式で、図Bは納屋局建屋分5組を加えた相関式である。図から明らかなように、納屋局は測定局大気吸入口により近い建屋での測定でも、カプセル捕集量に比して測定局の大気中濃度は低すぎて、相関係数を大きく低下させている。納屋局の捕集量と大気中濃度との不均衡については別稿で検討したい。今回の1年間全測定値による相関式としては図Aのものを用いることとする。
(ロ)季節別の相関性検討
気温と相関式の関係を検討した。温度が上昇すると吸着剤トリエタノールアミンのNO2捕集係数が上昇し、同時に外筒下面のフィルターから進入した大気の拡散係数も増加する。従って温度が高いとカプセルによるNO2捕集量が増し、(測定局大気中濃度(ppb)/捕集量(μg))を表す相関式の勾配を低下させることが考えられる。そこで気温を基準として相関式の検討を行った。
気温の推移を市川の例で見た。本八幡局が気温未測定月があったため、隣接する松戸市根本局の下表に示す月平均気温(℃)を見た。
2013年 | 2014年 | ||||||||||
10 | 11 | 12 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9月 |
19.2 | 12.6 | 7.3 | 5.3 | 5.2 | 9.8 | 14.6 | 20.0 | 23.2 | 26.6 | 27.3 | 22.7 |
これを見ると四季がそれぞれ隣の季節とは群として気温に差があるので、3か月ずつの各季節に分けてそれらの相関性を検討することとした。秋季;13年10,11月、14年9月、冬季;13年12月、14年1、2月、春季;14年3,4,5月、夏季;14年6,7,8月における各5局15組について相関式を作成し、それぞれC,D,E,F図が得られた。夏季F図の相関式は勾配の値が他の3季節のそれから離れて小さいことが分かる。