月別アーカイブ: 2015年1月

東京外環道路による大気汚染  県民くらしの白書

1.市川の空気を調べる会について

(1)生い立ち

東京から江戸川の流れを渡るとき、国府台の緑の斜面林が出迎えます。ここが千葉県の玄関口市川市で、東京との違いを感じさせます。しかし市川はその後背に工業地帯、大都市や成田空港を抱え、東京との交通の要衝地でもあります。市川市は児童の喘息有症率が全県的にも極めて高く、1992年に地元の高校教員組合有志が市民団体の支援で、その原因物質とされる二酸化窒素(NO)の測定を始めました。以来毎年天谷式簡易カプセルを用い、市内全域のNO濃度を測定しています。

(2)活動の概要

年に2回、会員約100名が改良型簡易カプセルにより自宅周辺と市内全域を測定します。これにより市内のNO汚染状況を知り、市民に公開し、大気汚染への関心を高めることを目指します。カプセルは、各測定毎に会員が現在1000余個を手作りします。測定は、6月と12月の第1木曜夕刻に、会員が測定箇所にカプセルを取付け、翌日同時刻に回収して測定本部に集めます。後日発色液と比色計でカプセル中のNO2量(μgを測り、これを複数の測定局へのカプセル取付け試験で求めた相関式で大気中濃度(ppmに変換します。相関式の相関係数は常に0.95前後と高く、測定値の信頼性の高さを示しています。測定結果は報告書にまとめ、報告会や市環境フェアーで公開し、市(環境保全課)にも報告し、市中央図書館で閲覧に供しています。

(3)道路公害の調査活動 

東京外環道路は市川市を縦断し、2600余戸の住宅を立ち退かせる無謀な道路計画ですが、残念ながら収用事業が認定され、建設が進行中です。この道路による大気汚染予測の測定活動を行っており次項で報告します。この他に、松戸市幸谷の市民の憩いの森「関さんの森」にも道路計画があり、大気汚染測定のお手伝いをしています。

2.東京外環道路による大気汚染

(1)外環道路千葉区間の環境影響評価(アセスと略す)の検証

平成8(1996)年に実施された当局(国土交通省と東日本高速(株))による外環千葉区間のアセスについて、大気汚染物質NO2に絞って検証しました。

(イ)NO2濃度の環境基準

1978年に中央公害対策審議会が「長期暴露におけるNO2の年平均濃度は0.02~0.03ppm以下」の答申を行い、これに基づき同年に環境基準「1日平均値の年間98%値が0.04~0.06ppmのゾーン内又はそれ以下」が定められました。一般にアセスでは「年間98%云々」は精度等に問題があるので、「年平均0.02~0.03ppm以下」を守るべき目安としています。

(ロ)当会の実測に基づく予測値と当局アセスの予測値

外環千葉区間は全面開通で現在の埼玉区間より交通量の増加が見込まれます。そこで現埼玉区間のNO2平均濃度から千葉区間計画路線のそれを差し引き、開通後のNO2増加濃度を予測しました。この予測NO2増加量は過大評価でないことは明らかです。 2007年から2009年の定例測定時に、埼玉区間の遮音壁外側約20か所と千葉区間計画路線約20か所をほぼ同時測定しました。表1に各測定時の両者の平均値とその差を示します。0.010~0.017ppmの濃度増加が予測されました。近辺の本八幡局と市川局の6時点のNO2平均濃度それぞれ0.0245ppmと0.0337ppmをバックグランドとして増加量と合わせると、0.0345~0.0503ppmとなりアセスの目標値0.03ppmを大きく超えます。

表1 外環道埼玉区間と千葉区間計画路線のNO2平均濃度と両者の濃度差

2007年 2008年 2009年
6月 12月 6月 12月 6月 12月
平均濃度ppm 平均濃度ppm 平均濃度ppm 平均濃度ppm 平均濃度ppm 平均濃度ppm
A埼玉外環 0.0379 0.0591 0.0430 0.0477 0.0343 0.0344
B計画路線 0.0249 0.0417 0.0260 0.0372 0.0211 0.0244
A-B 0.0130 0.0174 0.0170 0.0105 0.0132 0.0100

一方、当局アセスにおける千葉区間のNO2濃度予測値は表2の通りで、一般部、特殊部の年平均増加濃度はともに0.0040ppm以下と当会予測値の1/2.5以下で、バックグランド値を合わせてもほぼ0.03ppmをクリアするとしています。

表2 平成8年の当局アセスにおける外環道千葉区間のNO2濃度予測値

一般部10地点 ジャンクション等特殊部4地点
計画道路による年平均増加濃度 0.00365ppm 0.0040 ppm
バックグランドを加えた年平均濃度 0.0271 ppm 0.0273 ppm
日平均値の年間98%値 0.0522ppm 0.0528 ppm

(ハ)市川市による外環千葉区間の独自アセスによる予測値

平成2(1990)年市川市は独自で千葉区間のアセスを行いました。結果は掘割スリット構造(現行の構造)では増加量が0.0122ppmとなり、バックグランドと合わせると0.03ppmを越えるので、蓋掛け構造等を提唱しています。この増加予測値は当局アセスの3倍以上で当会の予測値に近い値です。

(ニ)当局による埼玉区間アセスにおける予測値と実際値

外環埼玉区間の当局によるアセスでは、予測目標年度1999~2000年で、草加市原町測定局等5局で、いずれも年平均濃度は0.03ppm未満でした。しかし予測年度での5測定局の実際の年平均濃度は全て0.03ppmを超え、アセス予測値は過小であったことが明らかになっています。

(ホ)当局アセス予測値の過小の原因と、外環事業推進の正当性

当局がアセスに用いたNOガス排出係数は定速走行時のもので、市川市が用いた実測モードのそれの数分の1で、これが両者の違いの要因と見なされます。この点は平成8年の県アセス審査会でも訂正を求めたのに当局は拒否したとのことです。以上の検証から、当局は外環千葉区間のNO2濃度を不当に低く予測したと見なされます。 2007年に外環千葉区間の周辺住民570名が高柳俊暢氏を代理人として、県に公害調停を申請しました。2010年に県調停委員会は特殊部の再アセス等の調停案を提示し、当局の受諾拒否に対して、異例の受諾勧告と調停案の公表をしました。本道路による公害の未然防止が必要と考えたのでしょう。本道路は収用事業が認定されましたが、公害問題が未解決であり、収用事業として推進すべき正当性はありません。

(2)外環道埼玉区間による大気汚染の周辺への影響調査

外環埼玉区間道路から排出される高濃度NO2の周辺部への影響を調べました。方法は、三郷から和光までの区間で幹線道が交差していない5か所を選び、各々その両側について、壁の内面と外面、壁から50、100、200、500mの12地点のNO2濃度を、改良型簡易カプセルを1地点3本用いて測りました。測定は、夏季 2007年8月9日(木)10時~10日(金)16時と、冬季 2007年12月20日(木)10時~21日(金)16時 の2回行い、各地点のカプセル取付け時間長さは全て24時間暴露値に調整しました。結果は表3に集約しました。濃度は5か所の平均値で、両側の平均値は壁内面の値との比率も示しました。表から、遮音壁はすぐ外側の濃度を半減させますが、この濃度は500mまで殆ど変わらず、一般住宅地より高いことが分かります。外環道路のように交通量の多い道路は、排気ガスによる影響も広範囲に及ぶと考えられます。

表3 外環道埼玉区間の道路周辺部における二酸化窒素(NO)濃度 (ppm)

測定日 (A)2007年8月9日~10日 (B)2007年12月20日~21日
内回り濃度 外回り濃度 両側平均 内回り濃度 外回り濃度 両側平均
濃度 比率 濃度 比率
遮音壁内面 0.0778 0.0748 0.0763 1 0.0810 0.0752 0.0781 1
遮音壁外面 0.0394 0.0395 0.0395 0.52 0.0528 0.0428 0.0478 0.62
壁から50m 0.0364 0.0370 0.0367 0.48 0.0444 0.0424 0.0434 0.56
壁から100m 0.0362 0.0348 0.0355 0.47 0.0442 0.0404 0.0423 0.55
壁から200m 0.0340 0.0373 0.0356 0.46 0.0430 0.0410 0.0420 0.54
壁から500m 0.0396 0.0335 0.0366 0.48 0.0440 0.0376 0.0408 0.53
周辺一般局 0.0211 0.28 0.0376 0.48

以上

「道路と大気汚染」報告と講演会 概要報告

日 時  平成26年3月9日(日) 午後1時30分~4時20分

場 所  市川市中央公民館  第一会議室

司会は中島さん

① 2013年度市川市内二酸化窒素(NO2)濃度測定結果の報告

市川の空気を調べる会   鈴木一義

2013年度の定例測定日は、市川市測定局のNO2濃度から見ると、6月度は市全体が低めの日、12月度は高めの日にあたった。このため当会のカプセル測定値も6月度はこれまでになく低くなり、12月度はこれまでの最高レベルであった。しかし定例測定日を挟む長期間の平均濃度で見ると、6月度と共に12月度も前年度より低下していた。しかし12月度の住宅地点はここ数年ほぼ横ばいで、これは市内を走行する大型車の増加の影響が考えられた。

② 外環道路問題の現状と今後

市川市松戸市外環連合   高柳俊暢

外環道路は完成時期を当局は平成28年3月から平成30年3月まで2年延期したが、莫大な予算執行が必要なことからも、高速部の供用開始は5~6年後、国道部は更に4~5年先になると予想される。

環境対策の見直しを求めて2007年に千葉県に対して起こした公害調停では、2010年9月に、特殊部の模型実験などの環境影響予測の実施と住民を加えた協議会の設置を求めた調停案が提示された。当局の受諾拒否を受けて、調停委員会は受諾勧告と異例の調停案の公表までしたが、当局は拒否した。そして独自の環境影響予測を再実施した。しかしこれは、1日9万台の予測走行車量に対してNO2の予測増加濃度はバックグランドの1/20 、SPM増加は実質的に0という、全く現実から離れた従来の予測と同様のものであった。

今年1月末に国道2号線の高架化に関わる裁判で、広島高裁は最高裁の判例を超える騒音レベルは、例え幹線道路の特例として作られた環境基準を満たしていても受忍限度を超えているとして、国に住民への賠償を命じた。国は上告を断念している。千葉の外環道路の騒音予測も最高裁判例を超えており、環境対策の見直しを求めて争える状況がある。また、外環道路により生活道路が使えなくなったり、横断に時間がかかり過ぎたり、側道の2車線部分が増えたりと、多くの問題があり、今後も監視と対応が求められている。

③ 自動車排ガスとPM2.5 ―東京大気裁判をふまえて―

西村隆雄  弁護士、元東京大気汚染裁判弁護団事務局長

東京大気裁判では2つの大きな社会的前進を勝ち取った。一つはPM2.5の環境基準の

制定、もう一つは東京都における公害被害者認定制度の復活である。

講演する西村弁護士

(1)PM2.5について

PM2.5の環境基準の制定

PMとは浮遊粒子(particulate matter)の頭文字をとったもの。浮遊粒子には粗大粒子とPM2.5を含む微細粒子があり、微細粒子は肺の奥にまで入り込んで有害性が高い。

PM2.5の健康影響についてはアメリカなどで多くの調査結果が出ている。短期影響と長期影響があり、前者としては、呼吸器系や循環器系の死亡率と大気汚染と相関性があること、またこれら疾病による入院とPM2.5と相関のあることが明らかになっている。長期影響としては、アメリカ白人8000人を長期追跡調査し、大気汚染の最高時は低い時に比べ死亡率が1.26倍になる。また120万人の追跡調査ではPM2.5濃度が10μg/m3

上昇する毎に全死亡率が7%、心疾患による死亡率が12%上昇した。

これらの結果からアメリカでは1997年に、ヨーロッパでも早くからPM2.5の環境基準が出来ていたが、日本は出来なかった。東京大気裁判の和解条件でこれの制定を国(環境省)に約束させ、更にアメリカのPM2.5の健康影響データを現地で収集したりして執拗に迫り、ようやく2009年に制定させた。

PM2.5の越境汚染について

いま中国でのPM2.5などによる大気汚染が日本に影響を及ぼしていると宣伝されている。しかしこれを否定する論文が出された(大気環境学会誌 45巻6号、2013年)。2013年までの10年間の各1月の平均PM2.5濃度を北京と福岡で見ると、シベリア高気圧が強い年は大気が安定して北京ではPM2.5汚染が高まり、弱い年は汚染が低下したが、福岡のPM2.5濃度は変わらず、両者のPM2.5濃度に相関はなかった。また2013年1月はシベリア高気圧が例年になく強く、中国でひどい大気汚染が発生したが、大気が安定して日本への輸送量は増えておらず、代表的越境汚染地の長崎県福江島では2013年1月は他の年より低目であった。これらの結果から、中国でのPM2.5の高濃度汚染と日本でのPM2.5汚染とは直接の関係は薄いとしている。

PM2.5を減らすために

日本でPM2.5の環境基準が出来た時に、その基準を満たす測定局は殆どなく、元々日本にPM2.5の汚染はあり、現在でも都市の自動車排気ガス測定局で基準を満たすのは20%前後と汚染は続いている。東京都の調査によると、有害な人工物由来のPM2.5の1/3は自動車が発生源であった。PM2.5を減らすには車対策が重要ということである。

(2)公害被害者認定制度の復活と現在の状況について

東京大気裁判は原告が600数10名で、2002年に判決が出されたが、この時患者など数1000名が駆け付けた。判決は沿道の7名だけが公害被害者として認定されるという厳しいものだったが、石原都知事には控訴を断念させ、自動車メーカーから資金拠出の確認書を取った。これらを持って裁判所に「公害被害者認定制度の復活」という条件の和解勧告を迫り、ついにこれを出させ、国、都、ディーゼル自動車メーカー、道路公団からの拠出金200億円で2008年8月から、都民に対して認定制度が復活した。これは大きなこと。これまでに7万8000人が認定されている。

しかしこれには5年後の見直しという条件が付いており、継続させるために都内の医師会に働きかけて、保守的な医師会の53中41から意見書を得ている。しかし都は資金が足りないとして、新規認定を2015年3月で打ち切り、既認定者の2割自己負担の方針を打ち出している。この間国は、そらプロジェクトという車による大気汚染と呼吸器疾患との関連性を調べる大規模な追跡試験を行い、学童に関しては道路との関連があり、非喫煙の成人にも関連性が見られた。これらの結果をもとに国や都に認定制度の復活を働き掛けているが、今のところ厳しい状況が続いている。

以上

喘息児は増え続けているという現実があり、都の認定制度は全国に適用すべきあると考えます。このためには、ようやく復活した都の制度はぜひ存続させたいものです。西村さんは現在も、健康被害者の皆さんと共に、国や都と精力的に交渉を続けています。私たちも署名活動等で積極的に協力しましょう。

(文責 鈴木)